「聴く」ということ

ある講演会にて

 「人の話をよく聞きなさい。」という言葉を誰でも一度や二度は言われたことがあると思います。どんな人から言われるのかというと、やはり一番多いのは親からかもしれませんね。その次は学校の先生?それとも職場の上司?といったところでしょうか。
 

 実は、先日、ある方の講演会に行ったのですが、講師が講演途中でこんなことをおっしゃったのです。
 

「皆さん、僕の話し聴いてます?こっちから見ると、聴いてる人、7、8人しかおりませんわ。」と。
  
そして、
 
「本当に聴いている人は、うんうん、って頷きながら聴いてますわ。そんな人、こっちから見たら7、8人ですよ。」

っておっしゃったんですね。

 その会場は、300人は入る大きな会場、そして客席は満席で立ち見が出るほどの盛況な講演会でした。そのうえ、その講師の話は、コテコテではないけれどちょっとだけ関西弁でエネルギーに満ち溢れていて、とても面白い。それなのに、講師から見たら、本当に聴いてるのかと思うくらい、お客の表情や反応は薄かったんですね。
 

 そんな中、私はどんな風に聞いていたかというと、「うんうん」と首を縦に振って頷きながら聴いていました。自分のことをよく言うわけではなく、人の話を聴くときは、私は頷くのが癖になっているのかもしれません。隣の人にはちょっと鬱陶しいかなとも思ったのですが、話がとにかく興味深く面白かったので、「うんうん」と同時に「あははは。。」と笑ったり手を叩きそうになったりして、とにかく楽しく、たぶん笑顔で聴いていたのではないかと自分では思います。
 

 それでも、講師から見たら、私が「ちゃんと話を聴いている7、8人」の中に入っていたかどうかはわかりません。決めるのは話している講師のほうですからね。
 
  

 

聴く姿勢

 その講演会の講師が感じたように、自分は相手に聴いてほしいと思って話しているのに、相手がちゃんと聴いているように見えないと言うようなことは、よくあることだと思います。これは、聴いている側の「聴く姿勢」がそのように見えないから話している相手がそう感じてしまうのですね。
 

 誰でも自分が話している時に相手が聴いていない態度だと不快な思いをします。ですので、相手に不快な思いをさせないよう、どのように聴けば相手が話しをして満足になるのか、聴く姿勢について少し考えてみましょう。
 

 ですので、どのように聴けば話している相手が満足するのか、聴く姿勢について少し考えてみましょう。
 

 多くの方がご存知かとは思いますが、「聞く」と「聴く」では態度、姿勢が違いますね。私もこの文章の中では、「聴く」という漢字を使っている通り、人の話を注意して聴くときは、「聴」の漢字の中にある耳と目と心を使っている姿勢で聴くことが大切です。特に自分にとって大切な人にはいい印象を与えたいもの。そのような人の話を聴く際には、私はあなたの話をちゃんと聴いていますよ、と伝わるような態度、姿勢で聴けるようにしてみましょう。
 

 その姿勢とは、まずは、先述したとおり頷くこと。本当に人の話を聴いていれば自然に頷くはずなのですが、頷く癖がない人は意識して頷くことが大切ですね。話している人は、自分の話に共感してほしいものです。ですので、頷いて聴いてくれていると自分の話に共感してくれていると感じて満足できるのですね。
 

 それから、相手の感情に合わせることも大切です。ごく当たり前のことなのですが、これで失敗する人も少なくありません。相手が悲しんでいるのに、喜んでいるような態度で聴く人いませんか?相手が悲しんで話している時は共感して悲しみ、相手が楽しい話をしている時は一緒になって楽しみながら聴くこと。簡単なようで実はなかなかできていない場合も多いのです。
 

 今、相手はどんな感情を持って話をしているか、それを感じ取って頷きながら話を聴く。これが話しを聴くときの基本的な姿勢ですね。
 
 
 


 

孫の話を聴くように

 基本的な話の聞き方の姿勢が分かったところで、どんな風に聴けば相手がもっと喜ぶのかを考えたとき、とても分かりやすくていい例え話を聞きました。
 

 相手が喜んでくれる話の聴き方。
 それは、可愛い孫の話を聴くおじいちゃん、おばあちゃんの姿勢だそうです。確かに可愛くて仕方がない孫の話を聴くおじいちゃん、おばあちゃんの顔や態度は孫に合わせようとしています。可愛くて仕方ないのですから、孫が楽しそうなら笑顔で聴き、泣いていたら心配そうに聴き、怒っているなら一緒に怒ったり、なだめたりして、自然にお孫さんの気持ちに寄り添うように聴いていますね。
 

 このように相手の気持ちに強く共感して聴くということが、聴き上手になる秘訣です。
 おじいちゃん、おばあちゃんはお孫さんが大好きです。そんな孫が自分に向かって一生懸命話しをしてくれるのですから、聴くほうも一生懸命聴きますよね。孫に好かれると嬉しいからですし、本当にお孫さんの気持ちに共感しているからですね。自分には孫がいないから、という方でもこの気持ちはわかっていただけるのではないかと思います。
 
 

 

私の聴く姿勢

 ところで、私がカウンセラーになると決めたときに、普段から仲のいい友人との会食の席でそれを報告したのですが、その会食が進む中である人にこんな風に言われてしまいました。
 

「全然人の話し聞いてないじゃん。そんなのでカウンセラーできるの?」
 

 自分ではちゃんとみんなの話しを聴いていたと思っていたのですが、大勢いた中のその人にはそのようには見えなかったのですね。これは、カウンセラーを始めたばかりの私の最初の反省点でした。完璧な人間などはいませんが、せめて誰から見ても「聴く姿勢」をちゃんとできるカウンセラーでいなくては、と強く感じた出来事です。
 

 それから一年ほどたったある日のこと。仕事で知り合った方からは全く逆のことを言われてとても嬉しく感じた出来事がありました。それは、仕事の打ち合わせで、あるご年配の男性と会っていた時のことですが、嬉しい言葉をいただいた出来事です。その言葉とは、
 

「中島さんは聴くのが上手だから、ついつい長く話しちゃうよ。」
 

 というものでした。
 確かに、その時の打ち合わせは、1、2時間の予定だったのですが、実際にはその方は4時間も話し続けていたのです。話しも楽しかったですし、かなり時間が経ったなぁとは思っていましたが、終わってみると、なんと4時間。すごいですね。ほとんど相手の方がしゃべりっぱなしでした。話すことが好きな方とはいえ、私もだいぶ聴き上手になったという証拠でしょうか。それにしてもオーバーし過ぎですね。笑
 

 それでも、相手が気持ちよく話してくれる姿を見るというのは自分も気持ちがいいものです。気持ちよく話せる相手には好意も持てますし、プラスの感情が働きますのでその人とはいい関係を築けるようになって、いろいろなことが上手くいくようになります。
 

 ですので、聴き上手になると自分にもいいことがたくさん起こるのです。ぜひ皆さんも相手に共感しながら聴く姿勢を身に着けて、本当の聴き上手になってみてはいかがでしょうか。