生かされている命(中編)

同期の友人と交換したフライトでハイジャックに遭うという、まさかの経験をした私。
結局、そのハイジャックフライトは墜落することなく、インドのカルカッタ(当時の都市名)へ着陸して、かなりの時間が経ってから最終的に全員解放されて犯人は警察に連行され終わりました。
   

多分、6、7時間は地上で犯人と外部との交渉があったのではないでしょうか。犯人は、とても若く、男性というよりも男の子と呼んだ方がいいような年齢の二人組でした。
最後にはみんなその男の子達に同情するという意外な結末でしたが。

  
でも、ハイジャックのことを書くと長くなってしまい、今回書きたかったことは、このハイジャックではないのでここでは書かないでおきます。
 

それにしても、無事に飛行機が着陸した時には、とにかく命があってよかったと、あれほど着陸の瞬間が嬉しかったことはありません。
ハイジャックされたと分かった時は、「爆弾が爆発したら落ちて死んでしまう。」と思ったので、生きて地上に降りられたことだけでとにかく嬉しかった。
あんなに着陸したのが嬉しかったのは後にも先にもあの時だけですね。

 
そして、インドからも無事に帰った時、私は心の中で決意しました。
 
もうCAは辞めて日本に帰ろう!
 
ということを。

 

ハイジャック事件で、CAは命の危険と隣り合わせの仕事だと、ずっと脳裏にあった不安な気持ちが間違いではないと確信したので、ハイジャックのことでは両親にも心配をかけたし、本当に何かあってからでは遅い。と強く感じた私。
だから、あんなに憧れていたCAという職業だけれど、まだ数年しか飛んでいないけれど、誰に何を言われてもいいや。もう辞めて日本に帰ろう。と決めたのでした。
  

私は、どんなことでも一旦決めると決意は固く、知らぬ間に動いているということもあるので、退職届を出したのも早かった。
それは、誰にも相談しないで決めました。日本に帰ってどうするのかも何も決めないままでした。

 
でも、もうとにかく辞めなくてはと、頭のどこかで誰かが言っているようで、背中を押されているような感じでした。
だから、仲のいい同期の友人にも誰にも相談せずに退職届を会社に出しに行きました。
後になって、「水くさい。相談して欲しかった。」と言ってくれた子もいましたが、相談しても何をしてもあの時の私の決意は変わらなかったと思います。
  

そして、一人で会社に行き、退職届を出した帰りに普段はあまり立ち寄らないカフェに入ってみると、一期上の日本人の先輩が一人で座っているのが見えました。
なので、挨拶して一緒に座らせていただくと、「何してたの?」と聞かれたので
「実は、退職することにしまして、たった今、退職届を会社に出してきました。日本に帰ります。」
と、退職することを初めて話したのがその時に会った先輩でした。
  
 

先輩は、私がハイジャックに遭ったことはご存知だったので、それが原因で辞めるのかと思われたようでした。
でも、私は、今まで誰にも話さなかったけれど、実は、ずっと嫌な予感がしていて、このまま飛び続けると事故で死ぬような気がしていた、ということを先輩に話しました。だから、ハイジャックに遭って決意ができたのだと思うと。

 
すると、私の話を聞いた先輩は、こんな意外な話しをしたのです。
  

「私もね、もう辞めようと思っているの。私、妹がいるのだけど、変なことを言うのよ。実は、妹は占いができるのだけど、お姉ちゃん、このまま仕事を続けていると死ぬよ、って。なんだか信じ難いけど気になるし、なんか気持ち悪い感じがして。」
と。

 
私は、正直とてもびっくりして、同じことを感じている人がいると思いました。
妹さんに言われた事とは言え、このまま飛び続けると死んでしまいそうな気がする。と思っている人がいる。先輩は私と同じだ。とすごく驚いたとともに、何か不思議な感じがしました。

 

後編へと続きます。